2018/03/20
神経に近い親知らずでアゴの神経に障害が実際に起きたらどうなるの?
先日、30代の女性からこんな質問がありました。
その方は、神経に近い親知らずだから大きな病院で親知らずを抜歯するように先生から言われているそうです。
親知らずの歯茎(歯肉)が腫れてイタい!親知らずに大きな虫歯ができてイタい!という症状があっても、相談者さんのように神経麻痺などのリスクがぜんぜん想像できなくて、ものすごく怖い、と二の足を踏んでいらっしゃる方もいるでしょう。
「親知らずが腫れたり虫歯になったりして痛む人ってたくさんいると思うから、親知らずの抜歯ってたくさん行われているのだと思うけど……。」とアゴの神経障害について不安になっている方のためにこの記事を書きました。
今回は、「神経に近い親知らずでアゴの神経に障害が実際に起きたらどうなるの?」という質問にお答えします。
まず、親知らずの抜歯で起こりうる神経障害とその頻度についてさっそくお話していきましょう。
親知らずの抜歯で起こりうる神経障害とその頻度
下の埋まった親知らずを抜歯すると、下の唇やアゴらへんに感覚のマヒが出ることがあります。
一時的に感覚のマヒが出る方が0.6~1.2%、永久にのこってしまう感覚のマヒは0.2%と言われています。
参考:歯科口腔外科の各疾患の治療におけるインフォームドコンセント書式について[公益社団法人 日本口腔外科学会]
なぜ親知らずを抜歯した後に、下の唇やアゴらへんに感覚のマヒが出ることがあるのでしょうか
それは、親知らずの近くにあるアゴの神経が傷つくことがあるからです。
この神経が刺激をうまく伝えることができない状態が神経障害です。
親知らずの抜歯で、アゴの神経が傷つくと、下の唇やアゴらへんを触っている刺激をうまく伝えることができず、感覚がにぶくなってしまうのです。
実は、親知らずの近くには2つの神経があります。どんな神経があるのでしょうか。
ご紹介。親知らずの近くにある2つの神経
親知らずの近くには2つの神経があります。
1つ目は、アゴの神経。
2つ目は、舌の神経です。
1つ目がアゴの神経です。
脳から出た神経の一つが、アゴの骨の中に入ってきて、親しらずを近くを通り、アゴらへんから出て、下の唇までの感覚を支配しています。
アゴの神経に障害が起こると、下の唇やアゴらへんが麻酔の注射をした後のようにしびれて触ってもよく分からなくなります。
米粒がアゴらへんついてもよくわからなかったり、うがいもしにくいそうです。
この神経は、動きではなく感覚の神経です。
もしアゴの神経に障害が起きても顔が動かなくなることはありませんので、心配しないでくださいね。
2つ目が舌の神経です。
親知らずの内側には舌がありますね。
脳から出た神経の一つが、舌に入って舌の前2/3の感覚を支配しています。
この神経は、感覚の神経ですが、味の神経と一緒になるので、舌の神経が障害されると、舌の感覚や味がわかりずらくなったり、痛みが出たりします。
ご注意)神経の痛みは我慢しないで!
アゴの神経も舌の神経も感覚の神経なので、痛みを我慢すると、痛みが残ってしまうことがあります。痛み止めをしっかりと飲むことが大事になります。
舌の神経はレントゲン写真にはうつりません。
レントゲン写真で「神経に近いから大きな病院で親知らずを抜いてきてね」と先生に言われたときにレントゲン写真で見えるアゴの神経がこの下歯槽神経(かしそうしんけい)です。
歯科用CTで3次元的な位置関係を確認することができますよ。
(許可を得て掲載:転載不可)
神経の走行は一人ひとり違うので、アゴの神経や舌の神経が人によっては親知らずの近くにあることがあるのです。
親知らずの抜歯によって、傷つく危険性があるのは2つの神経でしたね。
医学の世界では、このアゴの骨の中に入るアゴの神経を下歯槽神経(かししそう)といい、舌の神経を舌神経(ぜつしんけい)といいます。
だからといって、親知らずを抜歯しなければ絶対安全とも言い切れませんよ。
親知らずを放置しても、アゴの神経に障害が出る場合もあります。
詳しくお話していきましょう。
親知らずの放置で神経障害!?骨髄炎の症状と対策
親知らずを放置しても、アゴの神経に障害が出ることがあります。
骨髄炎(こつずいえん)が進行した場合です。
骨髄炎(こつずいえん)は、骨内の空洞にあるやわらかい部分の骨髄まで炎症(えんしょう)が進行した状態です。
親知らずの周りに、細菌の感染を繰り返していると、腫れたり痛んだりする炎症(えんしょう)がアゴの骨の中まで進行してしまうのです。
先日、70代の女性が左側の下唇とアゴらへんにビリビリとしたしびれがある、と受診されました。
その方の口の中をみると、左下にある親知らずの部分から膿が出ていました。
レントゲン写真をとってみると、アゴの骨の中に埋まった親知らずの近くをアゴの神経が通っていました。
親知らずをずっと放置していたので、骨髄炎(こつずいえん)が進行し、アゴの骨の中にある神経にダメージを与えてしまったのですね。
骨髄炎(こつずいえん)の診断で、親知らずの抜歯と抗菌薬の治療を受けました。
親知らずを抜いた後から、下の唇とアゴらへんにビリビリとしたしびれは徐々によくなり、神経を元気にするビタミン剤などの治療を続けて、約1年でアゴらへんのしびれが良くなりました。
確かに、親知らず抜いたときに神経が傷ついて、アゴの神経が障害され、下の唇やアゴらへんに麻痺が起こることもあります。
しかし、親知らずを放置して、アゴらへんにしびれがでてしまうこともあるのですね。
放置した親知らずで骨髄炎(こつずいえん)になった場合、原因になった親知らずを抜歯すると、下の唇やアゴらへんのしびれは徐々によくなっていきますよ。
最後に、「アゴの神経障害の治療とどれくらいの時間がかかるの」についてお話しますね。
アゴの神経障害の治療と時間
下の唇とアゴらへんのしびれは、数ヶ月から1年半以内でほとんどがよくなります。
少しずつしびれている範囲が小さくなっていき、最後にぽちっと一点だけ感覚がわからない部分が残ります。
まれですが、感覚のマヒがずっと残ってしまう方もいます。
神経は、体の傷と違って治りにくいからです。
例えば、脳卒中で半身マヒになってしまう方がいますよね。
半身マヒがなかなか治らないのは、神経の治りが遅いからです。
脳もアゴの神経もどちらも神経細胞の集まりですね。
下の唇とアゴらへんにしびれが出た30代女性が受診されました。
親知らずを抜いた後、右側の下の唇やアゴらへんを触っている感覚が少しにぶくなったそうです。
(許可を得て掲載:転載不可)
左側の下の唇とアゴらへんの触っている感覚が10点満点だとしたら、6~7点ぐらいしかわからない、ということでした。
神経を元気にするビタミン剤などを飲んでもらい、2ヵ月ほどで、右側の下の唇やアゴらへんを触っている感覚はほとんど回復されました。
神経は、電気のコードのようなものです。
もし、スマホの充電用のコードが傷ついてしまったら、うまく充電できなくなってしまいますよね。
同じように神経も傷つくと、信号をうまく伝えられなくなってしまうのです。
もし親知らずの抜歯で、アゴの神経が明らかに切れてしまった場合、神経をぬい合わせる手術を行うことがあります。
アゴの神経が完全に切れてしまうと、触っている感覚がまったく分からず、つねってもイタいとも何も感じなくなってしまいます。
まとめ
「神経に近い親知らずでアゴの神経に障害が実際に起きたらどうなるの?」という質問にお答えしました。
親知らずの近くにはアゴの神経と舌の神経の2つがありました。
どちらも感覚の神経なので、顔の動きには影響しませんよ。
確かに、知らず抜いたときに神経が傷ついて、アゴの神経が障害され、下の唇やアゴらへんに麻痺が起こることもあります。
でも、親知らずを放置して骨髄炎(こつずいえん)が進行すると、同じようなしびれがでてしまうこともあるのでしたね。
親知らずを抜歯した後、一時的に感覚のマヒが出る方が0.6~1.2%、永久にのこってしまう方は0.2%です。
ゼロではないがほとんど起こらない、と思っていただいて大丈夫ですね。
治療法として、神経を元気にするビタミン剤などを飲むと効果的です。
たとえ下の唇とアゴらへんのしびれが出たとしても、数ヶ月から1年半以内にほとんどがよくなりますよ。
いかがだったでしょう。
少しでも不安だったところがイメージできたでしょうか?
神経麻痺のリスクが想像できなくて怖い、というあなたの力になれば嬉しいです。
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