2018/02/15
ご紹介。神経に近い下の親知らず抜歯前の3つのチェックポイント
神経に近い親知らずがある方にとって、抜歯の後の神経麻痺は心配ごとの一つ。
「下の親知らずを抜くかどうか迷っている」という方いませんか。
前回の「斜めにはえた親知らずが虫歯!?神経に近いと言われたが抜歯すべきでしょうか?」という記事を書きました。
「あなたはABCDのどれ?抜歯の難易度4段階」についてお話しをしましたね。
親知らずの状態によって難易度はA~Dの4段階に分かれ、難易度が上がれば、神経麻痺が起こるリスクが上がる、というお話でした。
このページの目次
【目次】
1) あなたはABCDのどれ?抜歯の難易度4段階(←前回の記事)
2) 3つのチェック!自分のレントゲン写真をみせてもらおう(←今回の記事)
3) 10年以上の修行が必要!?抜歯後に痛みと口腔外科の経験年数
4) まとめ
今回は、続きの「3つのチェック!自分のレントゲン写真をみせてもらおう」から始めます!
親知らずを抜歯したい方が病院を受診されたときに、私たち口腔外科医がレントゲン写真でチェックしているポイントをご紹介します。
2) 3つのチェック!自分のレントゲン写真をみせてもらおう
まず、下記の3つをチェックしましょう。
① 親知らずの根と透明な線(下顎管/かがくかん)との重なりがあるか
② 7番目の歯の後ろにスペースはあるか
③ 7番目の歯に対して親知らずの深さはどうか
1つ目の「親知らずの根と透明な線(下顎管/かがくかん)の重なりがあるか」です。
(質問者から提供。本人の許可を得て掲載)
レントゲン写真(パノラマX線写真)で重なりがなければ、神経麻痺の心配はほとんどないでしょう。
神経の麻痺が起こるリスクがあるのは、レントゲン写真(パノラマX線写真)で重なりがある場合です。
なぜならば、下顎管(かがくかん)の中を下歯槽神経(かしそうしんけい)の束が通っているからです。
神経の麻痺が出やすいのは、手術のときに下歯槽神経(かしそうしんけい)が表れたときです。
(質問者から提供。本人の許可を得て掲載)
レントゲン写真(パノラマX線写真)で、親知らずと透明な線(下顎管/かがくかん)が重なりが大きい場合や見えにくい場合、歯科用CT(コンビームCT)を撮影してみてもいいでしょう。
親知らずの根と下顎管(かがくかん)が重なっていたとしても、神経が親知らずの根のどこを走っているかまではレントゲン写真(パノラマX線写真)ではわからないからです。
レントゲン写真は、2次元だからです。
歯科用CTを撮影すれば、3次元的に顎の中を見ることができるからです。
下顎管(かがくかん)が、顎の中で約半数は外側(頬側/きょうそく)を通りますが、内側(舌側/ぜっそく)や下側付近(根尖側/こんせんそく)を通ることもあります(*1)。
親知らずの内側(舌側/ぜっそく)や下側付近(根尖側/こんせんそく)を下顎管(かがくかん)が通る場合に神経の麻痺が起こりやすいのです(*2)。
2つ目の「7番目の歯の後ろにスペースはあるか」です。
スペースがなければ、それだけ難しくなります。
大きな机や大きな画面の方が、小さい机や小さいパソコンの画面で作業をするよりも作業が楽に進みますよね。
3つ目の「7番目の歯に対して親知らずの深さはどうか」です。
骨を削らなければいけないのは、親知らずの頭の部分(歯冠)が骨に埋まっている場合です。
ここで、もう一度、抜歯の難易度4段階を見てみましょう。
A:まっすぐはえていて、歯茎(歯肉)を切れば抜歯できる(歯肉切開のみ)
B:斜めになっていて、歯を分割すれば抜歯できる(歯肉切開+歯冠分割)
C:斜めや横になっていて、骨を削れば抜歯できる(歯肉切開+骨削除+歯冠分割)
D:完全に骨の中に埋没している(歯肉切開+骨削除+歯冠分割)
親知らずが深ければ深いほど骨を削らなければなりません。
抜歯の難易度4段階のうち、骨を削らなければならないのはCとDですね。
つまり、深ければ抜歯の難易度が上がるということです。
骨を削らないAとBに比べて、骨を削るCとDが1.5倍神経の麻痺が出やすいことが分かっています(*3)。
ちなみにレントゲン写真で、親知らずの状態を分類したものをWinters分類と言います(*4)。
「7番目の歯の後ろにスペース」はWinters分類のClass Ⅰ, Ⅱ, Ⅲに分類されます。
そして「7番目の歯に対する親知らずの深さ」は、Winters分類のPosition A, B, Cに分類されます。
専門的なので詳しくは説明しませんが、貴重な書籍をオープンライブラリでダウンロードできます(*4)ので、ご興味のある方はぜひ読んで見てくださいね!
3) 10年以上の修行が必要!?抜歯後に痛みは口腔外科の経験年数
抜歯後に強い痛みがあって、骨が露出した状態をドライ・ソケットといいます。
ある論文によれば、口腔外科の経験年数が9年目までと、10年以上が親知らずを抜歯した場合では、9年目までの方がドライ・ソケットの出現が高いことがわかっています(*5)。
9年目までの中堅と10年以上のベテランといっても、手術をした先生も受けた患者も一人ひとり違うので、一概には比較できませんが、修行の年月や経験が成果に結びつく場面は多いのはどんな業界でも同じでしょう。
手術を受けた方の年齢が高いほど、ドライ・ソケットが発生しやすいこともわかっています(*5)。
大事なのはお互いに無理をしない、ということ。
手術時間が長くなれば、神経麻痺も出やすくなるので(*4)、勇気ある撤退も大事ですね。
4) まとめ
抜歯の難易度4段階のうち、骨を削るCとDは、骨を削らないAとBに比べて麻痺が出やすいので、自分のレントゲン写真(パノラマX線写真)をみせてもらいましょう。
親知らずの根と透明な線(下顎管/かがくかん)の重なりがなければ、神経の麻痺の心配はあまりしなくても良いでしょう。
もし、重なり大きければ、歯科用CT(コンビームCT)を撮影して、下顎管(かがくかん)が顎の骨の中のどこを走っているか確認してみてくださいね。
症状のある「下の親知らずを抜くかどうか迷っている」という方の参考になれば嬉しいです。
参考文献:
*1伊藤 正樹, 宮城島 俊雄, 他:下顎智歯と下顎管の位置関係 CTによる術前評価:CTによる術前評価.日口外誌, 40:148-154,1994.
*2長谷川 巧実,李 進彰,他:下顎智歯抜歯後の下唇知覚鈍麻と術前のパノラマX 線および多断面再構成CT 画像所見との関係.日口外誌, 56:568-576,2010.
*3 Winter, G.B.: Principles of Exodontia as Applied to the Impacted Third Molar. St Louis, MO, American Medical Books, 1926, p41-100.
*4 三浦 康次郎, 木野 孔司, 他:下顎埋伏智歯抜歯後の神経麻痺.日口外誌, 65:1-5,1998.
*5湯浅秀道,河合幹:下顎埋伏智歯の臨床的検討.日口外誌38:1163-1166,1992.
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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