2018/02/16
親知らずは抜いた方が良いのでしょうか?
親知らず(前から8番目の歯)に症状があっても我慢すれば症状がおさまるから様子を見ている、という方いませんか?
親知らずの部分が腫れたり、痛んだりしても、しばらく我慢すれば症状がおさまるから抜くかどうか迷っている、という方がいらっしゃいます。
今まで一度も症状がなければあまり心配いりませんが、いったん腫れれば抵抗力が落ちたときに症状が出てくるので注意が必要です。
ときどき症状がある親知らずを抜いた方が良いのか迷っている方のために書きました。
ぜひ参考になさってくださいね。
このページの目次
1) 親知らずを抜く明確な基準とは?
2) 4つの理由と親知らずを抜く1つの基準
3) 25歳までに抜いた方がお互いにラク!?さまざまなライフイベントも。
4) 65歳を過ぎてから親知らずを抜くのはちょっと大変
5) まとめ
1) 親知らずを抜く明確な基準とは?
「親知らずを抜いた方が良いかどうか」についてお話しします、と言うと、数多くの方は「明確な基準がある」と考えるのではないかと思います。
率直にお話しすると、そんな基準はありません。
理由は4つあります。
1つ目、埋まりかた(埋伏状態)が違うから。
2つ目、根の形と顎のスペースが違うから。
3つ目、むし歯(う蝕)や歯肉の腫れ(歯冠周囲炎)の状況が違うから。
4つ目、年齢や全身状態が違うから。
つまり、親知らずを抜歯する基準は、一人ひとりの状況が異なるので、1つの基準だけで判断するのは禁物なのです。
2) 4つの理由と親知らずを抜く1つの基準
では、先ほどの4つの理由を詳しくみていきましょう。
1つ目です。親知らずの埋まり方(埋伏状況)は一人ひとり異なります。
ナナメ・タテ・ヨコなどはえている方向も違いますし、浅い人もいれば深い人もいますし、神経が近い人もいれば遠い人もいます。
埋まった親知らずを抜いた後に、下唇や下顎の部分に出る神経の痺れ(下歯槽神経知覚鈍麻/かしそうしんけいちかくどんま)は一時的なもので0.6~1.2%ともいわれています(*1)
2つ目です。根が1つの人もいますし、2つに分かれている方もいます。顎が大きくスペースがある人もいればない人もいます。
根は1つの方が抜きやすいですし、顎が大きくスペースがある方が手術しやすいです。
3つ目です。親知らずの前の歯(前から7番目の歯)にむし歯ができている方もいますし、親知らずに大きなむし歯ができている方もします。
むし歯ができていたら、放置するのは危険ですね。
歯肉の腫れがある人ものどが腫れることがある(蜂窩織炎/ほうかしきえん)ので注意が必要です。
このように、一概にいうことはできないのです。
だからこそ、普段の診療で私がお話ししている1つの基準、4つ目の年齢と全身状態について詳しくお話ししていきましょう。
3) 25歳までに抜いた方がお互いにラク!?さまざまなライフイベントも。
親知らずを抜きたいです、と言って病院にいらっしゃる方のある年齢を私はついチェックしてしまいます。
それは、25歳です。
なぜならば、20代後半になるといろいろなデメリットが出てくるからです。
ある教科書によると、抜いた後の傷の治りが18歳以下では1~2日ですみますが50代以降では4~5日かかる、と言われています(*2)。
また、20歳頃までには親知らずが真っすぐにはえることができるかどうか判断できます。
ナナメや横になった親知らずを放置するとむし歯になったり、腫れたりする可能性が出てきますよね。
さらに年齢が上がれば、重要なライフイベントが増えます。
大事な仕事に影響を与えてしまう可能性があるのはもちろん、妊娠や出産のときに親知らずを抜きたい、と思っても化膿止め(抗菌薬)や痛み止めなどの薬も使いにくくなってしまいますよね。
こういうと25歳を過ぎると手術ができない、と思われる方もいらっしゃる方もいるかもしれませんが、大丈夫です。何歳でも手術はできます。
4) 65歳を過ぎてから親知らずを抜くのはちょっと大変!?
最近、少しずつ増えているのが65歳以上の親知らずの抜歯です。
いろいろな問題が考えられますが、年齢が上がれば、骨が硬くなります。
子どもの骨は柔らかいのでプラスチックのコップ、大人の骨は硬いので、陶器の茶碗をイメージしていただけると良いかもしれません。
また、埋まった親知らずが何度も腫れていると、歯と骨のすきま(歯根膜腔)がなくなります。
すきまがあまりないと、抜くのが大変になります。
先日、70代の方が埋まった親知らずを抜くために受診されました。
親知らずの周りの歯肉が腫れて膿が出てくるようになってしまったということでした。
いろいろなご病気もあったのですが、血圧に注意しながらなんとか親知らずを抜くことができました。
65歳以上になれば、抜歯などの小手術の際に注意が必要になります。
とくに高血圧や心臓病(虚血性心疾患や不整脈)や、脳卒中などの脳の血管の病気がある方ですね。
心臓の力が弱っていたり、血がサラサラにする薬を飲んでいたりすることがあるからです。
もちろん万が一のために救命処置の講習を受け(BLSやACLS)、他の科との連携を取れる体制はあります。
→一次救命処置(Basic Life Support:BLS)の講習会にいってきました(過去のブログです)
→二次救命処置(Advanced Cardiovascular Life Support : ACLS)の講習会に参加してきました (過去のブログです)
しかし、体調によっても予測できない事態が起こる可能性もゼロではない、と考えています。
5) まとめ
私が普段お話ししていることをまとめました。
一人ひとりの状況は異なるので一概にいうことはできません。
むし歯になったり腫れたりしていなければ、様子をみるのも一つの選択肢になるでしょう。
25歳を過ぎると手術ができない、と思われる方もいらっしゃる方もいるかもしれませんが、大丈夫です。
何歳でも手術はできます。
かかりつけの歯科医院で相談しながら、治療方針を選択してくださいね。
自分の口の中に少しでも興味をもってもらい、迷っている方が自身の状況を見極め、判断の一助となればと嬉しいです。
参考文献:
*1歯科口腔外科の各疾患の治療におけるインフォームドコンセント書式について[公益社団法人 日本口腔外科学会]
*2『現代口腔外科学』,原著James R.Hupp, Edward Ellis Ⅲ, Myron R.Tucker, 監訳 里村一人,濱田良樹,わかば出版
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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